私たちの仕事をしていても、イノベーションにあまり馴染みのない人に出会うことがあります。そのため、「ビジネスにおけるイノベーションとは何か」「なぜ企業がイノベーションにこだわる必要があるのか」という質問に答えることが多いのです。
イノベーションという言葉がいかに曖昧に使われているかを考えれば、それも当然のことでしょう。
また、イノベーションによって破壊される業界が増えている一方で、何十年も前からイノベーションの影響を受けていない業界も多く、これらの人々は必ずしも自分のキャリアの中でイノベーションに対処してきたわけではありません。
そのため、イノベーションはVCが支援する新興企業や大企業、そして多くの一流大学だけのものだと勘違いしている人が多いのです。
そこで今回は、初めてイノベーションに触れる人が、イノベーションとは何かを知るために、これらの質問について詳しく見ていきましょう。
ビジネスにおけるイノベーションとは、具体的に何を意味するのでしょうか。
まず最初に、イノベーションとは何かを定義する必要があります。
10人の人にイノベーションの定義を尋ねると、少なくとも8つの異なる定義が出てくるでしょう。
このテーマについてはさまざまな議論がありますが、少なくとも私の意見では、そのほとんどが学術的な違いに過ぎません。そのため、まずこの言葉を解明し、その意味を明確にすることが重要です。
個人的に気に入っているのは、Merriam-Websterによる定義です。彼らはイノベーションを単に「新しいものの導入」としています。
イノベーションとは、何か新しいものを導入することです。
これは、iPhoneのような製品のように、単に新しいものを発明することと同じではありません。
この定義では、新製品や新サービスだけでなく、ビジネスプロセスやビジネスモデルなど、さまざまな分野での改善も含まれており、これらはそれ自体がイノベーションの重要な源泉となっています。
ビジネスにおけるイノベーションの役割
ここまでイノベーションの意味を説明してきましたが、ここからは社会や企業にとってのイノベーションの役割を考えてみましょう。
まず、社会全体では、イノベーションは経済成長の重要な原動力です。スタンフォード大学の論文によると、1870年から1950年の間にアメリカ経済に起こった成長のうち、約85％がイノベーションによる生産性の向上に起因するとされており、これは個人の例外ではありません。同論文によると、異なる時代の他の経済圏でもほぼ同様の結果が得られているという。
このように、経済成長の85％を占めるこれらの機会を追求しないのは、明らかに個々の企業にとっては愚かなことだと思います。
ここ数十年の間に、オンライン検索やコンピュータのオペレーティングシステムなどの業界では、少数の企業が優れた市場ポジションを確立し、利益の大半を手にする、いわゆる「勝者が勝者を得る」経済への強い傾向が見られます。
このような状況をさらに悪化させているのは、技術革新の波に乗り、市場をリードする地位を追求しているこれらの支配的なプレーヤーは、しばしば既存の競争相手の価格を下回ることができ、市場シェアを獲得して競争相手を追い出すために多額の現金を費やす準備ができていることです。
さらに、アーク・インベストメントの調査によると、今後数十年の間に、事実上すべての産業において予想外のレベルの市場破壊を引き起こす可能性のある「イノベーション・プラットフォーム」と呼ばれるものが数多く登場しているとのことです。
アーク・インベスト イノベーションのインパクト
出典：アーク・インベスト ARK Invest社の許可を得て使用しています。
つまり、ある企業が今後成長し、利益を上げ、さらには生き残っていくためには、前述の目標のいずれか、あるいはすべてを達成するためのイノベーションが必要となる可能性が非常に高いのです。
企業はどのようにイノベーションを起こすのか？
従来、イノベーションは研究開発とほぼ同義でした。これは、基礎研究から新しい発明が生まれ、それが（可能であれば）特許を取得し、商業的な用途に発展するという考え方です。
このようなイノベーションは今でも確かに存在しますが、インターネットがゲームを根本的に変えてしまいました。情報、知識、最先端のツールやソフトウェアは、ほぼすべての産業において、以前の何分の1かのコストで、ほぼ瞬時に入手できるようになりました。
その結果、ほとんどのイノベーションは、かつてのように基礎研究を商業化することが直接の目的ではなく、既存の知識や技術、リソースを応用して、与えられたビジネス上の問題を解決することが多くなっています。
言い換えれば、パズルのピースを組み合わせることです。
最近では、イノベーションは、与えられたビジネス上の問題を解決するために、パズルのピースを組み合わせることがほとんどです。
実際には、Googleで有名な「70-20-10」というイノベーションの法則を使って説明するのが一番わかりやすいでしょう。
簡単に言えば、企業のイノベーションリソースの約70％をコアビジネスの漸進的なイノベーションに、20％をコアビジネスの拡大に役立つイノベーションに、10％を企業の未来を変えるような画期的なイノベーションに充てるべきだという考え方です。
これらの数字は経験則に過ぎませんが、さまざまな種類のイノベーション作業にリソースを配分するための素晴らしい出発点となります。
ほとんどの企業は、基礎研究の分野で一流大学や大企業に対抗できるほどのリソースを持っていませんが、どんな企業にもイノベーションの機会はたくさんあります。顧客サービスの革新や社内プロセスの自動化を段階的に進めるのに、何百万ドルもの資金は必要ありません。
もはやイノベーションとは、誰が最も多くのリソースを持っているかということではなく、市場が抱える問題に対して誰が最適な解決策を見つけられるかということであり、それは実は高額である必要はありません。
このことは、「ニーズ・シーカー」、つまり、市場や技術のトレンドを追うのではなく、顧客の問題解決に焦点を当てたイノベーターの成功率がはるかに高いことからもわかります。
ビジネスにおけるイノベーションの例
イノベーションがビジネスの将来にとって非常に重要であること、そしてどのビジネスにもできることであることがわかったところで、もう少し掘り下げて、ビジネスが追求できるイノベーションの種類の例をいくつか見てみましょう。
前述のように、世の中にはさまざまな種類のイノベーションがあります。それらを分類する最も簡単な方法は、イノベーションの市場インパクトと技術的な新しさを見ることです。
一般的には、新技術を多く含み、市場へのインパクトを追求したイノベーションほど、失敗する可能性が高いと言われています。一方で、この種のイノベーションは、成功すれば優れたリターンにつながります。
したがって、イノベーションに慣れていない企業は、少なくとも書類上はそのようなありえないことを成し遂げる経験やスキルがないため、壁に背中を押し付けられて選択の余地がない場合を除き、通常はこの種のイノベーションを追求すべきではありません。
したがって、イノベーションを始めたばかりの企業にとっては、実績のある技術を使い、たまたま理解している需要のある市場で事業を継続しながら、イノベーションで成功するために必要な能力を徐々に高めていく方が、通常ははるかに良いアイデアです。
他のビジネスと同様に、イノベーションを得意とするには、意図的な練習と投資が必要です。
そうは言っても、もしあなたのビジネスが破壊されようとしているのであれば、できるだけ早く行動し、変革をもたらすイノベーションに賭けて大きく展開する以外に選択肢はないのではないでしょうか。
しかし、すぐにこのような「ムーンショット」を目指さなくても、イノベーションへの投資でしっかりとしたリターンを得られないということではありません。
スペースX社の同期式ロケット着陸
私は以前、どんなビジネスでも追求することが賢明であると思われる、かなり広範なイノベーションの例を書きましたが、以下ではそのうちのいくつかを列挙することにしました。
これらはすべて、イノベーションの経験があまりなくても、どんな組織でも現実的に追求しようとすることができるイノベーションの形態です。
プロセスイノベーション
どんな組織にも、たくさんのビジネスプロセスがあります。多くの場合、これらのプロセスは形式化されていますが、少なくともいくつかの非公式なプロセスも存在します。
これらのプロセスはすべて理由があって作られたものですが、完璧なものはほとんどありません。例えば、これらのプロセスの多くは、たとえ根本的なビジネスが変わったとしても、おそらく変わっていません。
そのため、わずかな調整でもコストや時間の大幅な削減につながる機会がたくさんあります。このような低空飛行の果実に取り組むことの素晴らしさは、その効果がすぐに現れ、長期的には大きな影響をもたらすことです。
ビジネスプロセスの革新
何から始めればいいのかわからない場合は、従業員に「自分の仕事に関連する現在のプロセスをどのように改善するか」を尋ねると、簡単に始められ、イノベーションの機運を高めることができます。これは事実上、有用な改善につながることが保証されており、誰もが共感できるものです。
インクリメンタル・プロダクト・イノベーション
ビジネスプロセスに常に改善の余地があるように、すべての製品にも同じことが言えます。
しかし、特に製品のイノベーションでは、実行できる数よりも多くのアイデアが常に存在します。そのため、既存の製品に革新をもたらそうとする場合には、優先順位をつけることが何よりも重要になります。
ここで、体系的なアイデアとイノベーションの管理プロセスが必要となり、大きな違いが生まれるのです。
カスタマーエクスペリエンスの向上
カスタマー・エクスペリエンスは、革新的な企業が投資している重要な分野の一つです。
ほぼすべての市場で競争が激化している今、確かなカスタマー・エクスペリエンスは、ビジネスを継続するための必須条件となっています。さらに、優れたカスタマー・エクスペリエンスは、重要な競争上の優位性にもなり得ます。
カスタマー・エクスペリエンスの良い点は、一般的に、いくつかの主要なペインポイントと機会があり、適切な種類のイノベーションで簡単に解決でき、測定可能な結果につながることです。
さらに、第一線で活躍する従業員は、これらのペインポイントやチャンスが何であるかをよく理解していることがほとんどです。
ビジネスモデル・イノベーション
前述の例はいずれも漸進的なイノベーションでしたが、ビジネスモデル・イノベーションは一般的に、ビジネスや市場全般に対してより大きな影響を与えます。
ビジネスモデルの革新は、同じ製品を同じ顧客に販売していても行うことができ、多額の先行投資をせずに新しいビジネスモデルを試験的に導入することが容易にできます。
これらは当然ながら大きな変化ですが、自社の強みを補う適切なビジネスモデルを見つけることができれば、ビジネスモデル・イノベーションは強力で持続可能な競争力を生み出すことができます。
ここ数年、単品販売からサブスクリプションサービスやバリューベースの価格設定へと移行するなど、革新的なビジネスモデルを採用する業界が増えています。このリストでは、さまざまなビジネスモデルを紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
イノベーションを始めるために
結局のところ、イノベーションは間違いなく難しく、失敗のリスクも大きいものです。そのため、イノベーションを行わなくてもよいと考えてしまうことがあります。
しかし、それ以上に大きなリスクは、イノベーションを起こさないことです。イノベーションがなければ、簡単に言えば廃業が約束されているようなものです。
イノベーションにはリスクがつきものですが、イノベーションを起こさないことは最大のリスクです。
例えば、伝統的なタクシー業界は、ライド・ヘイリング・サービス、そして最終的には自動運転車を相手に負け戦を強いられていますし、インターネットやモバイルの革命によって倒産した企業もあります。
良い点は、誰でもイノベーションを学べることです。規模が大きくなると複雑になることもありますが、小さく始めて、うまくなったら徐々に大きなピースを噛み砕いていけばいいのです。
では、何を待っているのでしょうか？始めるのが早ければ早いほど、革新をしないことによる大きなリスクを減らし、利益を得ることができるでしょう。